オフェンスリバウンドの獲得は勝利に直結するか?(B1リーグの場合)

こんにちは、らんそうるいです。この記事では、Bリーグ B1において、オフェンスリバウンドを獲得することで勝利に近づけるか? を検討したので、その結果を紹介します。

私の結論は「オフェンスリバウンドを一つ獲得することで得られる期待得点は、期待失点よりも大きい。したがって、オフェンスリバウンドの獲得は点差を有利な方向に広げるので、勝利に直結する」です。

調査の背景:オフェンスリバウンドの価値に関する論争(?)

オフェンスリバウンドの価値については、実は論争(?)があります。

漫画『スラムダンク』の山王工業戦における、オフェンスリバウンドには得点に+2点、失点に-2点の価値があり、得失点換算で+4点分の価値があると桜木花道が気づくシーンは有名ですよね。このシーンで注目したい重要なアイディアは、オフェンスリバウンドの価値について、攻撃面での価値だけを検討しても不十分で、守備面での価値も検討し、得失点換算で考える必要があるということです。

『スラムダンク』では得失点換算で+4点の価値があるとされたオフェンスリバウンドですが、NBAではオフェンスリバウンドを積極的には狙わないのがトレンドになっています。佐々木(2022)では、NBA各チームのオフェンスリバウンド獲得率(OREB%)と勝率との相関関係が弱いことが紹介されています。また「オフェンシブリバウンドからの得点以上にトランジションで失点するリスクの方がいまのNBAでは大きい(佐々木, 2022, p.111)」と考察しています。つまり、近年のNBAにおいては、オフェンスリバウンドの攻撃での価値と守備での価値とを比較すると、オフェンスリバウンドの獲得を狙うことは損であることが多いと捉えられています。

一方、Bリーグではオフェンスリバウンド獲得率(OREB%)が高いチームは勝率も高いという関係が指摘されています(しんたろう, 2023)。しかし、OREB%が高いことの解釈が難しいです。しんたろう(2023)の結びでは「Bリーグにおいてはオフェンスリバウンドは上位進出の一因なのではないだろうか」と考察されていますが、オフェンスリバウンドそのものが重要というよりはむしろ、インサイド陣ひいては外国籍選手の実力が勝率に影響している可能性も否定できません。外国籍選手、おそらく本質的には攻守のキープレイヤーとオフェンスリバウンドを獲得する主要なプレイヤーが一致していることは、NBAでは珍しい要素での説明なので、NBAではオフェンスリバウンドの価値がマイナスになっていることも統一的に説明できます。

そこで、この記事では、外国籍選手の実力という代替説明を排除し、B1におけるオフェンスリバウンド1本の得失点上の価値を推測し、オフェンスリバウンドの獲得が勝利に直結するかを調査することを目指します。

分析の方針

シーズン勝率とオフェンスリバウンド数や獲得率を調べるのではなく、試合x対戦チームごとに得点(失点)とオフェンスバウンド数の関係を調べます。つまり、24(チーム数) x 1(シーズン)ではなく、24(チーム数) x 約60(試合数)のデータセットを調べます。

この狙いについて説明します。1チームあたり60個程度のデータが手に入るので、単純にデータの量が増えて推測の精度の向上が見込めます。さらに重要なことは、シーズンを通じて不変な各チームのそれぞれの特徴を考慮することができます。考慮できる特徴の中には、外国籍選手の実力が含まれるので、今回の方針でオフェンスリバウンド数と得点(失点)の関係が見られれば、前章で挙げた代替説明:「外国籍の実力が高いチームが勝っている説」を排除できます。

続く2節では、オフェンスリバウンド1本の価値を推測するときに考慮した要因と考慮する方法などを説明します。統計学的にもバスケのデータ分析的にも若干マニアックなので、興味がない方は結果まで飛ばしていただければと思います。

ゲームサマリーをパネルデータと捉えて固定効果モデルを使う

Bリーグでは試合ごとに各チームのデータが公開されています。これをゲームサマリーと呼ぶことにします。チャンピオンシップ(プレーオフ)も含めて、年間60試合程度のデータがチームごとに入手できます。

このゲームサマリーを、各チームに対して複数回データを測定した結果と捉えました。このようなデータセットを、パネルデータと呼びます。しんたろう(2023)が調査対象としたシーズンの合計データは、各チームに対して1回だけデータを測定した結果と捉えることができ、クロスセクションデータと呼びます。

パネルデータの標本サイズはチーム数x測定回数になります。仮にクロスセクションデータで同じ標本サイズのデータを用意できたとしても、パネルデータにしかできないことがあります。それが、チームごとの特徴を考慮することです。

チームごとの特徴を考慮することは、統制変数を測定していれば、クロスセクションデータと重回帰分析でも可能です。パネルデータと固定効果モデルで分析する場合は、たとえ測定していない・測定が難しい特徴であっても、考慮することができます(仕組みは、星野・田中・北川(2023)などを参照してください)。

チームごとの特徴を統制変数として測定することは、極めて難しいです。そもそも測定するには「この要素は得点や失点に影響するだろう」という仮説が必要です。これは、分析者のバスケへの理解(ドメイン知識)に起因する限界です。次に、影響する要素の定量化が難しいことがあります。これは、測定技術に起因する限界です。これら2つの限界から、統制変数を重回帰分析に組み込むのは非常に難しいです。モデルに組み込む統制変数に抜け漏れがあると、オフェンスリバウンドの価値の推定値が歪みます(欠落変数バイアス)。

そのため、パネルデータと固定効果モデルの組み合わせの特徴、チームごとの特徴については測定できていなくても統制できるというのは、非常にありがたいことだといえます。

Four Factorsに基づく統制変数の選択

パネルデータと固定効果モデルを使うことによって、チームごとの特徴はすべて統制できます。しかし、得点・失点はチームごとの特徴だけで決まるものではなく、試合ごとの影響を受けます。そこで、得点・失点の発生メカニズムとして、Four Factorsを仮定し、統制変数を選びます。

Four Factorsのアイディアはシンプルで「得点は、1回の攻撃で期待できる得点 (PPP, Point per possesion)と、攻撃回数(possession) に分解できる」というものです。さらに、PPPは「フィールドゴールの効率(eFG%)」「フリースローに関連する効率(FTR, Free Throw Rate)」「ミスの少なさ(TOV%, Turnover%)」に細分化できます。攻撃回数は「オフェンスリバウンド獲得率(OREB%)にブレークダウンされます(小谷・木村(2022)やSuzuki(2019)がFour Factorsを明快に説明した和文の資料です)。

この理論に基づくと、得点や失点とオフェンスリバウンドの関連を調べるために統制しないといけない、試合ごとに変動する要因は、1回の攻撃で期待できる得点つまり、攻撃効率です。そのため、PPPか、eFG%・FTR・TOV%を統制すれば、オフェンスリバウンドが得点に与える影響を正確に推定できると考えました。

攻撃回数については、オフェンスリバウンド数とOREB%には高い相関係数(r=0.88)が見られたため、モデルに投入できませんでした。

分析

データセット

B1 2021-22 ~ 2023-24シーズンの3シーズン分のデータをデータセットとしました。同じチームでもシーズンを跨いだ場合は違うチームとして扱いました。

PPPはオフェンスリバウンドを引かないPossを使って計算しました。

結果

得点への影響

まず、PPPで統制したモデルの結果を示します。自由度調整済み決定係数は0.84でした。

変数名偏回帰係数SEt値p値
オフェンスリバウンド数0.940.0245.26<0.01
PPP82.500.56146.74<0.01

次にeFG%・FTR・TOV%で統制したモデルの結果です。自由度調整済み決定係数は0.82でした。

変数名偏回帰係数SEt値p値
オフェンスリバウンド数1.040.0246.34<0.01
eFG%1.280.01125.17<0.01
FTR0.210.0130.05<0.01
TOV%-0.720.02-42.98<0.01

自由度調整済み係数はいずれのモデルも高いので、欠落変数バイアスの影響は小さいと信じたいです。いずれのモデルにおいてもオフェンスリバウンド数が1本増えると、1点程度得点が増えるという結果になりました。

失点への影響

まず、被PPPと被OREB%で統制したモデルの結果を示します。自由度調整済み決定係数は0.80でした。

変数名偏回帰係数SEt値p値
オフェンスリバウンド数-0.020.02-0.926<0.01
PPP(相手)73.300.59124.77<0.01
OREB%(相手)0.250.0130.5430.355

次に相手のeFG%・FTR・TOV%・OREB%で統制したモデルの結果です。自由度調整済み決定係数は0.78でした。

変数名偏回帰係数SEt値p値
オフェンスリバウンド数-0.020.02-0.8160.414
eFG%(相手)1.110.01105.27<0.01
FTR(相手)0.180.0123.89<0.01
TOV%(相手)-0.770.02-43.31<0.01
OREB%(相手)0.300.0134.30<0.01

自由度調整済み係数はいずれのモデルも高いので、欠落変数バイアスの影響は小さいと信じたいです。いずれのモデルにおいてもオフェンスリバウンド数の増加によって、失点が変化するというデータは得られませんでした。

結論

Bリーグでのオフェンスリバウンド1本の価値は、攻撃面で+1点、守備面では少なくとも悪影響はなさそうであるため、得失点換算で+1点程度と結論づけたいです。

佐々木(2022)で指摘されていた「リーグや(育成)年代によっても(オフェンスリバウンドの重要性には)大きな違いがある(p.36, 括弧内は補った)」可能性を、本記事では具体的に示しました。

同様の手続きによって、NBAやヨーロッパでのオフェンスリバウンドの価値を推測できるはずなので、興味があったらぜひ挑戦してみてください。

謝辞

初稿において、多重共線性の問題をご指摘してくれたNBAパッパさんと、欠落変数バイアスの問題をご指摘してくれたhoopholicさんに感謝を申し上げます。

参考文献

バスケットボールに関するもの

書籍:佐々木(2022). NBAバスケ超分析. インプレス.

web:しんたろう(2023).「数字で見るBリーグ」チャンピオンシップ出場チームが上位を占める『オフェンスリバウンド獲得率』を見る。.

書籍:小谷・木村(2022). バスケットボール最強の確率. 日東書院.

web:Suzuki(2019). バスケットボールを数字で分解する。~みんなに知ってほしいFour Factors~

分析手法に関するもの

書籍:星野・田中・北川 (2023). Rによる実証分析[第2版]. オーム社.

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